ゲームの内容に関する気持ちの悪い要求

先日のこと、このような記事がツイッターで話題を呼びました。

 

赤十字の戦争ゲーム内での人道に対する罪の描写について。 http://www.jrc.or.jp/ICRC/news/663.html

 

日本語記事は十月二十九日に発表されました。英語記事は、二〇一三年九月二十七日に発表されています。http://www.icrc.org/eng/resources/documents/film/2013/09-28-ihl-video-games.htm

 

私はこの記事で、上記の要求が、前提からして間違っていること、そして目的から外れた要求内容であること、さらにIC RCのやるべき事でもなければやっていい事でもない、という4点の反証を致します。

 

前提からして間違っていること。文章中に「ビデオゲームは若い人たちや次世代を担う人たちに人気が高く、絶大な影響を与えるので」 とあります。また同様に、 「私たちが関心を持っているのは、実際の戦闘現場をリアルに追求しているビデオゲームのみです。 」ともあります。

このようなゲームは、ファーストパーソンシューティング(FPSとも省略される。本稿ではこれ以降FPSと表現します。)と呼ばれます。とてもリアルなビジュアルで、物理演算もしっかりした精密な『戦闘現場をリアルに表現』されています。

 

早速、4gamer.netで紹介されていた、現代を舞台とした、リアル戦闘系のFPSをアマゾンで検索してみます。なお、パソコン限定のゲームではなく、家庭用ゲーム機で遊べるゲームというタイトルだけをあげました。

 

バトルフィールド4 CEROレーティングはD17才以上対象

 

コール オブ デューティ ゴースト CEROレーティングはD17才以上対象)

 

RAMBO The Video Game開発中。ムービーが見られる公式サイトのリンクをクリックすると、 18歳以下は閲覧できない旨の警告メッセージが表示される。

 

モダンコンバット:ドミネーションEROレーティングC (15才以上対象)

 

iOS向けの新作アプリCall of DutyStrike Teamこのアプリケーションのダウンロードは、17才以上の方が対象です。頻繁/極度 成人向け/わいせつなテーマ

  • 頻繁/極度 リアルなバイオレンス

  • 頻繁/極度 アニメまたはファンタジーバイオレンス

  • まれ/軽度 過激な言葉遣いまたは下品なユーモア

という警告メッセージが表示される。

 

スナイパー ゴーストウォリアー2 CEROレーティングはD17才以上対象)

 

スマートフォン以外は、ps3Xbox360のタイトルばかりです。ceroレーティングがCD以上であるのなら、プレイヤーは15歳以上あるいは17歳以上とされている。実際の戦闘現場の様子と、ゲーム内の戦闘現場の様子を区別できる年齢で遊ぶということです。

ゲーム統計サイトVGChartzhttp://www.vgchartz.com/ の統計によると、二〇一三年十月二十七日現在、日本で最も売れているゲームは3DSのポケットモンスターXY 1週間あたり241832本売れています。実況パワフルプロ野球や、モンスターハンター4に続いて5位にやっと、 『Grand Theft Auto V』がでてきますが、これは戦闘現場をリアルに表現したというよりは犯罪アクションゲームですので、 IC RCが槍玉にあげるとは言い難い内容と考えられます。

1週間単位では十分なタイトルは集まらないので、1年単位で見てみましょう。二〇一二年のチャート図によると、http://www.vgchartz.com/yearly/2012/Japan/

 

 

 

ゲームプレーヤーの人口は拡大しています。しかしとりわけ、プレーヤー人数が少ないジャンルのゲームの内容に意見する事は、人数の観点から言って実効性に乏しいといえます。非営利活動とは言え、資金や人材は有限なのです。筆者は、前提からして「実効性に乏しい」主張にリソースを割く事は、間違っていると考えます。

 

 

目的から外れた要求内容であるということ。すなわち、「実際の戦場で何が許され何が許されないのかを、ゲームを通じて知ってもらう 」という主張は、フィクションの中に因果応報や勧善懲悪といった要素を組み込む事です。戦争に於ける国際規約や戦後定められてその後破られることの多い国際法は、ゲームを通じて教えるべき内容かどうか。

Twitter上の反応では、フィクションに道徳教育や躾を押し付けてどーするの、という意見も聞かれます。

ビデオゲームの中でプレイヤーが主体的に判断し、ビデオゲームの中の行動を決定するからといって、それがすなわち現実の人間の行動決定に結びつくという主張は短絡的です。

 

例え話をしましょう。

任侠モノの映画を観た後の人は、格好良いヒーローの姿に興奮し、肩で風を切って街を歩くかもしれません。これは『弱い影響』であり、他の人の失笑を買ったりすることはあっても、日常生活に重大な、取り返しのつかないダメージを受ける事はありません。

しかし、いくら格好良いヒーローの姿に興奮したからと言っても、目についたヤクザの事務所に飛び込んでいって、手近なものを武器に振り回すようなことはしません。それはとても『強い影響』ですし、日常生活に重大な、取り返しのつかないダメージを受ける事です。心や体に大きな問題を抱えている場合を除き、普通の精神状態にある人は、そのような強い影響を回避するように、自分の心をコントロールして理性的に振舞います。

 

ゲームをプレイする人は、現実の世界は退屈で、ルールは不明瞭でいい加減に運用されており、ゴールがはっきりせず、主体的に意思決定ができず、受け取るフィードバックは曖昧であったり否定的なものだったりすることが多い、と感じています。だからこそ、現実の世界とゲームの世界をきっちり区別して振舞います。

ゲーム内の世界で、何をするべきかがよくわかって来ると、明確なゲームのルールに適応します。そこで培われたコミュニケーション能力や、チームワークを、現実の世界で発揮するプレイヤーもいます。

 

だとすれば、ゲームの中で爆撃機を操作しながら、

「赤十字のマークを表示したテントは攻撃してはならないという決まりがある」

と画面にテロップが流れたから、

「ふむふむ、人道活動中の赤十字は攻撃したらいけないな。」

と考えるようになった……と言うような、強い道徳的影響を受ける。

 

そんなことが現実的にありえるでしょうか。筆者はそのような『道徳的影響を受けるようにデザインされたゲーム』を、魅力的だとは思いません。

実際の戦場で何が許され何が許されないのかを、知ってもらう

という目的が達成されるには、

「ゲームを通じて」

という手段が必要でしょうか?

すでに申し上げたように、日本以外の国で評価するとFPSゲームのプレイヤー数は多数派ですが。日本においてはむしろ少数派です。人数の点から見て、実効性に乏しい手段です。また、 「知ってもらう」 = 「教育」という意味なのであれば、「ゲームという手段を選ぶ」着眼点は適切ですが、「娯楽用のゲームに、教育用のツールとして最適な内容を盛りこめ」と要求するのは間違いです。

営利企業による、娯楽サービスに対して、不適切な要求です。

 

ICRCのやるべき事でもなければやっていい事でもないという点。

赤十字社にとっては、ゲームが若人の精神涵養に影響するといわれる。しかし彼らの要求は営利企業による、娯楽サービスに対して、不適切な要求です。
建設的な提案として私は、ご自分たちでおつくりなさいませ。と、提案します。さぞや多くの人が支持なさる可能性が高うございますよ。

もちろん、売上不振だった場合は糾弾いたします。当然でしょう。非営利活動でこそ、事業評価は厳しく行われるべきです。

自著改定に反対!児童ポルノ法』でも触れましたけど。喫緊の課題である『現実の児童保護』を等閑に付しておいて、『非実在の表現物』において人権や人道、道徳を訴えることを、わたくしは『偽善』と呼びます。偽善と呼ばない人は、『偽善者』だけでしょう。"改定に反対!児童ポルノ法"より引用。 CC = BY、切身魚

ゲーマーは、それが楽しいから、ゲームする。他の誰か(身近な人であれ縁の遠い団体であれ)の『望ましい遊び方』を強制され、『望ましいストレス発散方法』をするよう矯正されるいわれはございませんな。 そして、ゲーマー側の『犯罪でもないのに』という反論を封ずるべく、『反社会的』というレッテル貼りには断固反対を主張します

 

最後になりましたが、ゲームクリエイターや表現者の側にいる方々は、このような「丁寧で論理的に展開される暴論」に騙されないようになっていただきたいと思います。手始めにゲーム・デザイナー、ジェーン・マクゴナガル著『幸せな未来は「ゲーム」が創る』でもお読みになるのがよろしいかと

TEDにもプレゼンがあるので、必見ですよ。 ご本人のサイトはこちら。 http://janemcgonigal.com/ 

他にも、様々な学術的根拠を学習しておくことです。

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