スピンアウト作品:ブルダスフ

朝食会議

話はその日の朝にさかのぼる。
相変わらず食事を『口に』はいれない魔術師ナナエと、卓をはさんで朝食をとる傭兵マリュフ。魔術師が人間とは異なる種族だと知ってからは、たまに『触手』が果物を包み込んで摂取するのを眺めながら、自分の分をぱくつくのに馴れた。
今日のメインは、黄緑色のピラミッドのような果物で、それは彼女が昨日収穫したものだ。ピラミッドの底辺部を真横に切り取り、逆さにしたら果肉をスプーンで掬って食べる。苺のように小さな種が混じっているが、薄甘い黄色の果肉は悪くない味わいだ。
大抵、この朝食時に二人でその日の予定を話合う。
≪ナナノナナエニヒトツカケ≫が、庭と呼ぶ所領を駆け回るのにはだいぶ慣れた。白い猿の使い魔、シファカの案内もあるが、彼女自身が熱水の川や森、ジャングルや火山での過ごし方に適応してきたのだ。珍しい植物の採集や、地面に奇妙な粉末を撒いたり、川の水の『おんどをはかる』器具の使い方習ったり。
その間に、魔術師が錬金術とパン焼きに挑戦していたり。『熱を防ぐため』、暗い場所に咲く花のように、色素のない皮膚になったり。 人間の前に出るときの外見とあまりに違うので、驚いたり、慰めたり。
色々な事が起きて、結構な時間を笑って過ごせていることには、感謝を覚える。

(今日、魔術師ナナエはどんな事を頼むのだろう)

どんな提案がくるのか、期待しながら待ち構えていたら、
「今日さ、友達を呼びたいんだけどいいかな?」
という斜め上の言葉が飛び出した。つい、
「お前、友達いたのか?」
と問い返したら、皿が飛び跳ねる勢いで魔術師はテーブルに突っ伏した。腕に顔を伏せて、そのまま肩を震わせている。
マリュフが手にもっていた分の果実を食べ終えても、まだ突っ伏していた。
「……おい?」
肩をゆすってみると、空色のローブの首元から、白い触手が一本、這い出してきて手の上に載る。ぽんぽん、と手の甲を軽くたたくのは、止めろという意味か。
動きを止めてみると、その触手を支えにするようにして、ようやく、本体の≪魔術師ナナエ≫も頭を起こした。
「あ・の・さ・ぁ……」
地の底から響くような声だ。とても落ち込むようなことがあったらしい。
「何だ」
マリュフの声は、同じくらい低く、ひび割れている。が、こちらは平素の声。
「いや、いい」
反論も何も、悪意が無いんだもんなぁ、と呟いて、魔術師は触手をひっこめた。
「最初から説明すっとね。昨日の夜に使い魔通じて知ったんだが、マルウェカッスルの状況が良くない。直接調査に行きたいんだなー」
マルウェカッスル。先日、若い騎士が魔術師ナナエを頼って派遣されてきた、ゆかりある土地の名前だ。温泉で賑わう都市なのだが、しばらく前に一か所以外すべての源泉が水になってしまったという。
何日か前に、魔術師ナナエは使い魔をつけて騎士ローレン卿を送り返したはずで、それで片がついた話だと思っていたのだが。そうでもないということか?
話の転がる先が見えない。
「それで?」
「行くなら、恋人と一緒に、行きたいなあ。行きたいよねー。行こうよー?」
明るい声と同時に、肩においてたマリュフの手が、病的に白い両手で包み込まれる。触手と同じ白い肌。対照的に明るい笑顔。
「行こうよー、たまにはお出かけしよーよー、ついでに温泉の問題も解決して、マルウェカッスル城の御殿風呂に一緒に入りてえーよーねぇー?」
節をつけて言いながら、握った手を前後に振る魔術師。
「お、おまえっ、後半は願望丸出しだぞ」
「願いは口に出せば叶うって、どこかの新興宗教家が言っていた」
「新興宗教、の時点で信じられん。そこで真面目な顔作ってもなおさら信用ならん」
ぴしゃりと撥ねつけたが、魔術師ナナエは引き下がらない。
「マリュフはいきたくない?建築家クェラ・ハール渾身の作、マルウェカッスルの城から見渡す絶景と温泉」
「う……うん、行きたいといえば、行」
「よっしゃ決定!カップル旅行っっ」
最後まで言わせずに決定された。ひゃっほーい、とか笑ってるので、否定する気も失せた。
マルウェカッスルの土地は離れている。彼女が旅したことのある沿岸諸国より内陸にある。土地の名すら、騎士ローレン卿から初めて聞いた。まだ行ったことのない土地という、その点には興味が湧く。
しかし、
「友達云々というのは?どういう事なんだ」
という疑問が片付いてない。
手を離した魔術師は、「ああそれな」と頷いた。
「居るんだよ。友達。丸っこくて、図体はちょっとでかいんだけど、目がつぶらでけっこう愛嬌があるの。娘たちには絶対手ぇださねーけど世話が上手で、留守を任すのに適任って奴」
魔術師ナナエにとって、最重要なのは『娘たち』と呼ぶ巨鳥の世話らしい。そこ基準で友人を選んでいるかもしれない。
「留守番を友人に頼みたいから呼んでいいか、ということか」

「そーいうことっ。あいつに頼まれてコッチが出かけてった時は、ポリヴェアグに襲われたりして、えっらい目に遭ったりしたけどさあ。性格は『法則の例外』が大嫌い、だけど『珍しいことは分析しないと気が済まない』って変な奴なんだよ。でも、いい奴さ」
お前が言うのか、というコメントを飲み込んで、マリュフの手は次の果実を取り上げた。
「呼ぶのはいいが、時間は大丈夫か?」
伝書鳩でも飛ばしたとして、相手が伝言を受け取って、さらにこの≪庭≫までやってくる時間。どれだけ遠いかにも依るが、と首をかしげてしまう。
「時間は問題ないさ。なにせ遠いからな。呼びかけて、ここに呼び出すのに、魔法使うんだわ。午前中、俺の居る塔三階は、立ち入り禁止。いいね」
「……そういえば」
「ん?」
「お前って魔術師だったな」
魔術師ナナエこと、ナナノナナエニヒトツカケは再度テーブルに突っ伏した。

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