ブックレビューStorm Breaking (The Mage Storms)

この記事はお話のネタバレを多量に含みます。日本語版がいつ出るか分からないので、とりあえず知りたい人は≪続きを読む≫をクリックなさってください。

≪魔法の嵐≫三部作の最終巻、日本語版はまだ出版されてないので、1*年前に購入ずみだった本作を読了。

トレメイン大公、ハードーンの王様になる。
キービジュアルが各章の前にモノクロで入っているのですが、日本語版の表紙(帝国の反逆者)は盛り過ぎです。主に前髪と頭頂部。ツるっぱげです。もうほんと、元官僚だけに「苦労人の部長」って感じです。
この王様となった彼が得た大地の絆(Earth sense)は、各土地の地脈が結節した点を、魔力の嵐から守るために重要な働きをします。
そして戴冠後、謎の国イフテルから使節がきたよ!
21人からなる使節はなんと、はるか昔に分かたれたグリフォン部族だった!
トレメイン王のもとで反乱鎮めるのにお役立ち。血に飢えた猛獣としてでなく、クールに威嚇と空爆でサクッとやっちゃう。
前作で、『イフテルの障壁は、ウルリックやカラル、あるいはソラリスなら受け入れるだろう』とされていた謎も解き明かされます。
大魔術師ウルソの時代にさかのぼる話。
グリフォンと種族混成の第三軍は、来たるべき大破壊に備えてできるだけ遠くに門を開いてジャンプしました。
出てみると、そこはマール軍のただなかでな?
太陽神ヴカンディス、敬虔な僧と信徒を守るために、エネルギー・フィールドを設置した。
これが、イフテルの起源だそうです。

そして帝国では、暗殺者メレスが、次期皇帝に指名されてから暗躍すること、ちょっとした悪漢小説のように痛快です。
汚職や収賄の情報を握ればそれで物流を操って、市民の人気を自分に集める。
属州の反乱が起きそうなら、部下の暗殺者を送り込んで『てめーの赤ん坊をいつでも殺せるんやで?』と脅迫する。
これが噂になって軍人たちが離反しそうになったら、今度は皇帝がトレメイン卿をハードーンに放置したことをプロパガンダして、
「共通の敵はアホの皇帝、それと魔力の嵐や!」
と自分の基盤作りにいそしむ。皇帝にはさっさとご退位願おう、という集まりにでかけては、
「皇帝はいつでん取り除けるさかい、今は帝国一丸となって脅威に備えないけん」
素晴らしい演説なんですが、メレスが言うとどうしても悪党のセリフです。でも帝国に相応しい統治能力は持っています。より悪く、より他人を信じない者こそ、この国の皇帝に相応しいんですね。
直接には描かれていませんが、士官学校時代にメレスとトレメインは友人で、何かあったらしいとのこと。
皇帝は皇帝で、狂気の怒りをヴァルデマールに向けています。
「うちんとこの外交官を紋章入りナイフでぶっ刺して追い返してきやがった。ヴァルデマールめぇぇぇ!」
崩れかけた肉体がこれまでと知るや、最後の魔力嵐にさきだって、歴代皇帝の魔法装置、及び自分に隷属した魔術師全員から魔力を暴走させようともくろむ。
もちろん、「他の国や、自分亡き後の帝国がどーなろーと知った事か。メレスも精々苦しむがいい」です。

舞台は主に2つの場所で、物語は進行します。
ウルソの塔では、古代語のエキスパートたるタルン(キリーの歴史家)とその助手ライアム(ハータシ)、炎の歌、シルバーフォックス(銀の狐と訳されてるのかな?共感能力者で調整者)、アン=デシャ、ロー=イシャ(平原四氏族のひとつから来たシャーマン)、レヴィ師範(ヴァルデマールの著名な数学者)、共に歩む者フローリアン、トレメイン大公の師匠で魔術師、老セヤネス。
そしてカラルとアルトラ(炎猫、どうやら最初の太陽の子が転生したらしい)。
それと途中から≪もとめ≫が加わります。
誰がもつかって?
以前の短編でも触れられていたように、男女どちらにも魂のバランスがとれているお人がいたでしょう。
ええ、炎の歌が持ちます。
ウルソが残した工房を発見し、古代語のノートを翻訳して魔法装置の仕組みを調べねばなりません。最後の嵐を無力化するために何をすればいいのか、何を用いればいいのか?前作で作った障壁も一時しのぎ、時間はあまり残されていません。

カラル 「僕だけが一般人……」

いやいや、彼はチャネルというたぐいまれな魔力操作の才能に恵まれてます。ナトリとの遠距離恋愛も大事ですしね。皆応援してるよ!

もう一つの舞台はハードーン。嘘のつけない呪いをかけられた、元官僚にして軍人、トレメイン。ヴァルデマールからエルスぺス、同盟を代表して暗き風、共に歩む者としては破格の能力をもつグウェナ。大地の僧侶ヤナス(Janas)
、途中からイフテルのグリフォン21名が加わります。リーダーはタシケス。
先ずトレメイン王は、各地の地方領主から忠誠の誓いを受け、持参された一握りの土を自らの血と混ぜ合わせ、≪大地の絆≫を結ばねばなりません。
トレメイン王が新たな魔力の感覚を使いこなすまでが前半。
後半、こちらにも新たな加勢が。それも南のカースから、ソラリス様が…。
彼らは魔力の嵐が激しくなる最後の時、地脈の結節が暴走しないようなんとか押さえねばなりません。仮に嵐を生き残っても、地脈が暴走したら生き残り続けることは難しいからです。
考えついた方法は、結節それ自体の魔力を使ってシールドする、それも玉葱のように内部から複数自動生成するように……それだって、国内全部の結節をカバーしてまわるには人員も時間も無い。
この問題がどーなるか。
そしてソラリス様とトレメイン王の間に横たわる過去の遺恨がハイライト。
先にあげたメレスが、帝国に相応しい統治能力を証明してのけるのなら、トレメインもまた、ハードーンが待ちかねた王に相応しい徳と統治能力を持ち、≪大地の絆≫を正しく使う善き人です。その持前の人徳でもって、グリフォンたちからも信頼を勝ち得てゆきます。

混迷の帝都、激情に駆られる皇帝、暗躍する次期皇帝。
最後の嵐の魔力を、アーティファクト≪迷宮函(Cube maze)≫でもって虚無に放出する計画が、最後の章で始動します。幾人かはもといた場所に還り、ある者は代償を支払って生き残ります。

この後のシリーズ≪Owl flight≫で、炎の歌が「顔に大きな火傷を負った仮面の魔術師」として描かれていますが、その理由も判明しました。
アン=デシャとの仲は自然消滅してます。憎みあって別れる訳ではないけれど。
アン=デシャがもう傷ついた者ではなくなり、一人前になった後も一緒にいられる相手かどうか?っていうと、
「ハンサムを鼻に掛けた、ポリアモリー万歳の天才魔術師」
は疑問でしたしね。
それに今回の結末は、炎の歌の側にも大きな傷を残しました。
「自分の以前の顔を知らない人たちの所に行きたい」
と、シルバーフォックスとともに別の≪谷≫を選んだのですから。
落ち着くべきとこに落ち着いた、ってことで良しとしましょう。

はやく日本語訳が出るといいんですが、英語版ですら463ページの大著です。面白いですが、腰を据えて読むことをお勧めします。

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