サンタノベル:クリスマスの『く』

(この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体とは一切全くこれっぽっちも欠片も関係はありません。創作SNS『創作王国』の冬季イベント用小説です。一部に大人向けの表現があります。また全体的に大人向けのファンタジーです)
次の一編:クリスマスの『リス』はこちら
第三話:クリスマスの『ます』はこちら

る者は拒まずだが、去ってほしい者は拒むよ」
「そ、それ、そんな今言う……」
「言うね。私は確かに自分の才能を信じて励んでるけど、君はどうなんだ。バンドマンにくっつくオコゲ女かい。ボカロPがメジャーデビューしたら内助の功って座におさまろうってか」
「そんなつもりない!」
「ああ、そんなつもりで居られても迷惑だ。包丁は持てない、ゴミは出さない、四角い部屋を丸く掃く。飯が作れるぶん、炊飯器のほうが有能だね」
「けど、でも」

ああああ、ごめんなさい盗み聞きするつもりは無いですが、仕切り後ろのカップル会話が丸聞こえです。
そして私の指がついフリック入力を止められないんです。ぬるくなったラテの表面で、泡は消えてなくなりつつあります。
この流れだと、「でも愛してる」みたいな切り札にもなってない切り札がそろそろ来るかなー。

「でも、でもこんなに愛してるのに」
「残念でした。愛してるだけじゃ一緒にはいられない。」

ひぃぃ、冷たいどころか、礼儀正しく程よい丁寧さで言い放ったよ!
この女性コワイ。
そして、彼氏が元彼氏になりそうな男性が、かわいそうに思えてきた。そう、おろおろしてる側が男の人らしい。

「クリスマスプレゼントに何が欲しい?じゃないでしょ。3万円の音源をプレゼントする前に、私に払うもん払ってもらえないかな」
「……」
「本来なら折半するはずだった家賃。光熱費。食費。君の携帯電話代を払ったのは何回だったかな」
「……」
「コンビニに行くと君、いつも振込用紙は持ってくるのに財布や手持ち現金は忘れるよね」
「……」

男性側、なんかごにょごにょ言ってるようですが聞き取れません。
入力は楽だけど、こんなん彼女に言わせるかなー、て気になってきた。同情心が一瞬で消し飛んだ……。

「愛っていうなら、君より同じボカロやってる、画面向こうの人間のがもっと愛せる。君、私の創作上の悩みを聞いてくれたことある?無いよね。ストレス解消に私は30kmランするって言ってるのに、ついて来ようとしたのは最初2回だけ。何でもセックスすれば解消できると思ってない?それ面倒。私にはね。君の理想の恋愛スタイルについていけないや」

おおお。
そう言うプライベートをどこかの誰が聞いてるか分からんコンビニ横のカフェで言い放ちますかお姉さん!ここに歌詞のネタを探してカフェで夕飯としゃれこむ歌詞職人も居るというのに!
でもま、これもバレなきゃいいのさ。
恋歌の歌詞ってな結局2パターンだ。片恋の詩か、別れうた。ラブラブ幸せバカッポーなのが受ける素地が少ないご時世。誰もが誰かの不幸を蜜と味わい、自分と同じかそれ以上に不幸になりゃいいと叩きまくってる。
ん。これもちょっと打ち込んで、後で切り分けておこう。いいフレーズはストックしておかなきゃ。

いそいそフリックする親指が、後ろで「ばん!」と机をたたく音で一瞬停止。
修羅場ったら即通報できるよう、店員の位置は確認済み。いくら歌詞のネタが欲しいっても、傷害の現場に居合わせるなんざ嫌だから。スマホのカメラアプリも、起動してある。
焦った一瞬のあと、低い声で、
「ここは、俺が払うから」
って言うのと立ち上がる物音。
そして、追い打ち。
「三日ほど部屋は空けるが、その間に出て行ってくれ。私の家財に手を着けたら君を通報する。法テラスには相談済みだ。もちろん、私自身への手出しは断固お断りするよ」
「っっ……見損なうな」

わ、ちょっとこれ!
現場に居合わせた無職(27)にはなりたくないよーう!

「そう。それは良かった。過剰防衛をやってマウスが握れなくなると困るのでね」

挑発したあああ!?
もうこれ以上は何事もおきませんようにって祈ってたのに。鼻の頭に脂汗がにじんできた。クリスマス前のありがち男女のお別れシーンを、ぽちぽち実況入力(もち、自分しか見ないテキストに保存)してただけなのに!何の天罰これ?
なんでよ、マジ勘弁してよ。神様仏さまミクさまー!
天使にも祈っていたら、まだ何か言いたそうだった、私の後ろの気配は、がさごそビニール袋の荷物もって出て行った。
わお、修羅場回避おめでとう!こういう男は、口で勝てなきゃ腕ずくって感じなので、お姉さん帰り道気を付けて!
むしろ私が、お姉さんの帰る時間に合わせて席を立とうかな。ラテは冷めちゃったけど、ベーグルはまだ三分の二残ってるし、追加の単品くらい入りそうだ。そう、一緒にとはいかなくても見守る感じで。女性Pさんらしいし、そのくらい……ん。
女性ボカロPやんけ背後のテーブルむこうの人!
そのとき、通知音が自分の手の中から響いた。
SNSの新着日記書き込みがあると、メールで届くようにしてあるわけで、それはフレさん限定、もっと言えばオフで会ったことのあるフレさん限定。

【件名:デブトロンPさんが日記を投稿しました】
『彼氏と別れて家を出ました。カプセルホテル泊まり確定w(本文はリンク先をクリックしてください)』

あああ!?
デブトロンさん!
デブトロンさんだー!県内在住なのは知ってたし、駅近くにあるラーメン屋のインスタとか見てる限り、沿線同じかなーとも思ってたけど!すんげぇ近所すぎ!
うっわ振り向きたい!振り向いて
「歌詞職人の五号飯です!お久しぶりー」
と言いたい!
でもダメ、ダメだぞ五号飯。今は、確実に気まずい。ナチュラル系の、美人というより眉が真っ直ぐで顔立ちが濃い、パンツスーツの似合うお姉さんが
「どうも、デブトロンです」
と名刺差し出した、あの初オフより、もっと動転するって。
今まさにそのお別れシーンを立ち聞き、いや座り聞きってゆーの?したのがばれたらそれはそれはもう、私のハートがブレイクです。
ハートも脳もブレイク寸前。でも、指はちゃんと動いてリンク先を開いてた。
知らないネタ元のお姉さんを心配する気持ちがそのまま、デブトロンさん何とかしてあげたいな、ってなってた。
だからコメント。

「うわ、クリスマス前に大変でしたねー。
デブトロンさん、私の家と近所じゃなかったでしたっけ?
駅前のビジネスだとしょぼい&高いんじゃないかな。バスで市内に出ての健康ランドお勧めですよー。良ければ気分転換にプチオフでもしましょうか」

よっしゃコメント一番乗り!
あああ。自分が確実にキモい。
でもこれしかないじゃない。幾らなんでも。オフで会った程度の人を家に泊める気にはなれません。同性でもね、うん。
ぼそぼそのベーグルをラテで流し込んでると、後ろのブースで金属の鳴る音。アクリルキーホルダーをつけたリュックをお持ちだったなとか、覚えててすみません!印象的だったもので!

(この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体とは一切全くこれっぽっちも欠片も関係はありません。次は『クリスマスの『りす』』を掲載予定です。)

この作品は、クリエイティブ・コモンズライセンス-表示4.0にて、著作権を事前に開放してあります。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

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