クリスマス向け短編小説『サンタになれない』

「クリスマス?何かする必要あるかい」
これが初めての反応。暖簾に腕押し、仏教徒にクリスマスの話題。
「いやその。ほら、ケーキ食べたり、プレゼントもらったりとか」
具体的に例を挙げてみたのに、
「子どもの頃はしてたけど」
そうそう。してたよね?
と身を乗り出す自分。ところが、その
「けど」
から後がいけなかった。

「大人になって独立してからは全然」
「全然」
「そう、全然」

降り積もる沈黙。
雪より冷たく氷河のように重い沈黙。
待て待て、まだ負けるには早すぎる。白旗はまだだよ自分。負けてない、負けてなるもんか。
「ほらっ、デートとか!」
「それってクリスマス関係なくない?」
「いやいやあるよ、記念日とか誕生日とかお正月とか」
「互いの時間が合うならいつでもできることでしょう。記念日でなくとも」
すげぇ穏やかな笑顔で確信もって言われた。
負けて……いかん、負けそう。
「商業的なイベントではない。敬虔にキリストの生誕を祝いなさい」
っつーたローマ法王とは別方向に、クリスマスが無効化されてる。
何とかして、こいつの欲しいクリスマスプレゼントを聞きだしたいのにさぁ!
「記念日でなくても何かしてあげたいんだってば!」
「何かねぇ……」
ふむ、と腕組みして何か考える表情。
よーしよし、考えろ考えろ。君の欲しいものはなんだ。聖ニコラウスの名に懸けて、始祖鳥の化石からマリー・アントワネットのカツラまで、欲しいってもんはなんでも用意して見せちゃうぞ。
自分が最大限の覚悟をもって待ち受けているというのに、返事はなかなかこなかった。
5分経過。
「……スー……」
「寝るなぁああああ!」
「はっ」
はっ、じゃねえよ。見習いサンタだからってなめてんな。しかも
「やー、本当に、物欲ってないから」
って頭かきながら笑う話か、それ。
お前もう半分くらい解脱してんぞ。仏教用語でいうところの半死半生やないけ。
「欲しいのがモノじゃないってなら、サービスでもいいぞ」
「なにそのマーケティング屋にアリがちな」
「うるさいな。人が頑張ってるんだから真面目に考えて」
「はいはい」
今度こそ寝ないだろな、と睨んでると。
「ひとつ思いついた」
PCディスプレイに呼び出されたひとつのウィンドウ。ファイル数が、えーと万、十万、百万単位でフォルダ全体が…
「テラバイト単位まで膨れ上がっちゃって、正直困ってたんだよね、ボカロ曲フォルダ。これ、使用ボカロと作曲者名と編曲者名と発表年月日ごとにタグつけて整理してくれないかな」
クリスマスプレゼントにサービスってなら、こういうのもアリでしょう、と仏さまのよーな穏やかな笑顔で言われたよ。
聖ニコラウス様。自分、頑張ります。見ててください。

そして、クリスマスイブ。某国某所にて。
「クリスマス布教隊の見習いサンタが一名、極東から戻ってきてませんねー」
「しかたのない奴だな。手こずっておるのか」
「あの国は独特のクリスマス文化の国ですから」
「年明けまでに帰ってこなかったら、来年はプレゼント仕分け隊に戻そう」

日本某所
「……おわんないよぅ……まだIA曲も終わってないのにこの後KAITOとMEIKOと初音ミクと鏡音リンレンがあるよぅ……しくしく」
「見習いサンタさん、年越しそば、食べます?」
「頂きます……」

(おしまい)