スピンアウト作品:記録された血の報復

記録された血の報復

静かな川面に、角度をよく見定めて石を投げると、石は殆ど等間隔で水面を跳ねてゆく。
「海運業で儲ける」とは、沿岸に沿って、投げた石のように等間隔で使いやすい港を見つけ、数日おきに水と食料の補給をしながら、売れる物資を共和国から市へ、村へ、あるいははるかな諸島へと運ぶことである。
稼げる船主とは、上手く商品を見定めて、ある土地で安値を見つけ出し、飛び石のように港を跳ねまわりながら、別の土地では高値で売りさばく者だ。
時によっては海賊と化す地元民を、金品で懐柔する、あるいは海軍を有する国に頼る。そういう融通の利く、『経営感覚』の鋭い者のことだ。
中でも成功したのが、元は海賊であったが、身分を買い取り、共和国の元首になったジョウト・チャック・デ・オーチョンという男だった。ジョウトは海賊時代からの遺恨を鑑み、商売と政治に活躍の場を求めた。
国とか、国を名乗るには小さい都市をつなぐ海路のひとつは、とても重要な収入源である。地理条件から数日以内の場所に港がなく、ほぼ全ての船が、共和国の港で補給をせねばならない。港湾使用料だけでも大いに潤ったが、海軍へ支払われる護衛料も馬鹿にできない金額である。
人と物が行き来する海は広かったが、大人しく通してくれるような場所はそう多くない。中でも『悪魔の指串』と呼ばれる海は、水面ギリギリの位置に岩礁が多く、海流は不安定。その一番真ん中にあるバン・チオン島は、込み合った海流のぶつかり合いのせいで逆に凪いだ海域にあった。
広さだけなら共和国といい勝負なのだが、煙を吹く火山と、森が大半を占める起伏だらけで、耕作地は殆ど無い。主食は、火を通すとねっとりした甘味を持つヤム。森の恵みと、海から獲れる魚介類。
住民の数は千にも満たない。針金のように強い髪と、なめし革のように日焼けした肌が共通しているが、黒髪の者や銀髪の者が混じっている。
島の中で暮らすバン・チオン人というのは、他の地域に居る人たちからは想像もつかないくらい、お互いに規律を守って穏やかな暮らしぶりである。
が、後の世の人は『バン・チオン人を見たら軍人か海賊と思え』という。そのくらい、剣の腕を買われ、一触即発の危険人物を表す代名詞ともなった人たちである。
そういう島の人々は、島がどっかの国の領土で、自分たちはどっかの国の臣民だ、とは決して考えなかった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

This blog is kept spam free by WP-SpamFree.

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください