こういう三人百合誰か書いて

マストドンで「三人百合の可能性」を暑苦しく語ったので、このネタ帳にまとめて投げます。誰か書いて。

意外と「三人が平等に百合」って無いな、って話になりまして。 Vの字なのか、三角形なのか、によっても色々パターンが考えられますよね!

三人が三人とも、「二人のことは同じくらい好きで、どっちか一人なんて決められないから一緒に居よう。」 と言い合っている関係。

実は内心で色々、差別化してしまったり、そのことに気づいて後ろめたさに打ちのめされたり、打ち消そうとして変に片方だけ特別扱いしてしまって、またそれに自己嫌悪したり。

横にいる片方が気づいてしまったり、「私の気のせいじゃないかな」「でももしかして」と悶々としたりする百合もいいかと思います!

差別化、っていっても、それこそ『マリみて』レベルなネタでいいんですよ。 1のバースデーに、2と3が「1はチェリー好きでしょ」って同じタイプのケーキ買ってきて(表面上ほのぼの百合) 1は2と3どちらのケーキを先に口にするのか!?(で、三者三様に嫉妬したり自己嫌悪したりするんだよ)

そこで何かの拍子に一人が死んでしまって。逆に決して結ばれることが許されないと悟る二人の、薄氷の上を歩むような関係もまた佳し。

あるいはそれで決別するも、命日に邂逅した二人がもだもだする話もまた佳き。

死んでしまった一人の遺書か何かで、その一人が激重感情を吐露してても良いですね。知っているのは、無関係観察者ポジ男性あたりで。

三人揃って、お揃いリングとか指に嵌めた写真を撮影してですね。 その中の一人は、すでに自分の死期を知っているんですよ。でもって激重感情なんですよ。それでも、残る二人の幸せ、たとえそこに自分がいなくても幸せでいて欲しい、という願いだけは純粋に輝いてたりするんですよ。

残る一人は、片方にだけ天秤の傾いた自分の気持ちに、罪を感じつつも、この居心地よさを続けたいんですよ。

最後の一人は、2人目の気持ちに気づいていて、でも自分も1人目と一緒に居たいから、いつも「どっちか一人なんて決められないから一緒に居よう。」と呪文のように唱えてしまう。 そういう百合も読みたくないですか!?

2名ペアでさえ、どちらか片方が重くなるのは致し方なし。 しかしそこで3人となると、自分の重さを指摘されてドッキリするもよし、必死に否定するもよし。

誰か書いて……。(アイディアに著作権はないので、誰が書いてもいい。ただ私に読ませてください。)

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サンノベ2016表紙_s

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皆様よいお年を!

サンタノベル:クリスマスの『ます』

(この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体とは一切全くこれっぽっちも欠片も関係はありません。創作SNS『創作王国』の冬季イベント用小説です。また全体的に大人のボカロ界隈向けのファンタジーです)
第一話:クリスマスの『く』
第二話:クリスマスの『りす』

ますますもって、クリスマスって気分じゃなくなる」
というのが乾杯(ただしソフトドリンク)直後、デブトロンPさんの一言でした。

SNSでプチオフしませんか、の日記コメントしたのが、私こと五号飯。
便乗でコメントくれたのがスウちゃんさんこと、絵師の四暗刻さん。オフで何度かお見かけしてるメンバの一人。
そこに一緒にいいですか!ってフレンドつながりで来たのが、女装レイヤーのリッシュさん。(メンバーの中で一番可愛いよ、このひと!)

みぞれ模様の空はどんよりでも、カラオケ屋のパーティールームは暖房ガンガンなんであちゅいくらいです。お昼のゆったりメニューの唐揚げ3種類とチヂミとポテト、スパゲッティに枝豆…って完全にビールが欲しいけど、

「水、ピッチャーでください」
「ワタシウーロン茶」
「クリームソーダ♪」

デブトロンさん、四暗刻さん、リッシュさんの順で、この流れ。
ここで空気も読まずに「ナマチュウ」とか言えませんでした。アイスティーのレモンで妥協したよ、妥協。

サイドメニューにサンドイッチとか、生ハムとマスカルポーネチーズのサラダとか、BLTっつーて頼んだら『ぶぶ漬けレタス卵とじ』が来たりとか、ぎゃあぎゃあ笑ったり。

「注文したからには、責任もって頑張って食べます!」

とデブトロンさんがBLT一気(ほとんど飲んでた)したりとか。
飲み物がもうひとまわりして、カラオケ屋なのに殆ど歌わずに色々話ししたり、四暗刻さんのタブレットで新作イラスト見せてもらったりしてたら、話の流れは「デブトロンさん、元カレにひでぇ目にあわされてた」件になる訳で。
家賃とか色々折半するはずのお金を入れてない件とか、まぁ色々……済みませんあの、歯に衣着せてあげて!聞いてて辛い!ってなりながらも聞き終えたころ。
もう一度、溜息と一緒にでてきたのがさっきのセリフ。
すかさず相槌を打つわたし。

「ですよねえー。いっそクリスマスは中止になりました曲でも作りませんか」

流石に『お別れシーンの現場に居合わせました』とは言いません。

「いいっすね!」
「クリスマスなんて無かったのよーらららららんって」
スウちゃんさんがぐっ!と親指立てた横で、妙に節をつけて鼻歌になるリッシュさん。

よし、ここはもう一押し!

「あれっ、ここにいるメンツでもうコラボできちゃいません?」
「リッちゃんは画像加工と動画もできるん~♪」

ナイスアシストですリッシュさん!

横で四暗刻さんがテレた笑いをしてるけど、いいじゃないですか。同人誌作るの手伝ってくれる彼氏さん(モデル可)は貴重品ですぜ。
水のピッチャーが空っぽになって、デブトロンさんが「ふーむ」と鼻から息を吐いた。

「……実は私、あるクリスマス有名曲が苦手でして。今年はアニソンカバーでもと思ってましたが。せっかくメンツが居るのなら、クリスマスぶち壊しソングのほうが、意欲をもって取り組めると思います」

にっ、という笑いがちょっと悪い顔でした。

「あのー、苦手曲ってどんななんですか?」
年代的に知ってるかな、と不安げに挙手したリッシュさんに一つ頷くと、デブトロンさんは

「知ってると思いますよ。これです」

とリモコンから曲をいれた。
それは有名で、山下ナントカと同レベルの、Gコードで始まる歌。プレゼントに椅子を買って帰ったら、彼女は家を出てしまってましたーというあれですよあれ。

「知ってる、超知ってる!」

そこからの話は速かった。
「勘違いプレゼントより先にさあ、恋人にしてやったり、聞いておくべきことがあるじゃない?」
「うん、うん!」
「私としてはプレゼントより先に払うべき金を払え、と言いたいですね」
「デブトロンさんが言うと重みがある……」
四暗刻さんが苦笑いして沈黙が落ちた時。
ふと思ったので、
「歌詞のノリとしては、”Bills, Bills, Bills”みたいな感じです?」
質問というつもりはないけど、歌詞職人として言ってみたら。

「ビルズビルズビルズ」

オウム返しに唱える3名は、洋楽には疎かったようです……。

Destiny’s Child の歌詞和訳してるサイトを検索して、ついでにYouTubeも見せたら、デブトロンさんはきゅ、と片方の眉を上げた。
「ロックでいきましょう」
そして、にっ、と悪い顔で笑いました。

【デブトロンP】クリスマスって気分じゃない【KAITO V3&CYBER SONGMAN】
作詞:五号飯
作曲&編曲:デブトロン
イラスト:四暗刻
動画編集:リッシュ

12月19日にすべり込みで公開した動画は、
「1000再生でもいけば御の字です」
というデブトロンPの謙虚な予想をはるかに超えて伸びました。

リッシュさんと四暗刻さんは、冬コミ準備の宣伝に混ぜて色々ささやいてくれました。
五号飯は、マイリス数が900越えてきた頃に再度広告ぶっこみました(匿名で)。

12月21日、夕刻。
印刷所にデータを送り終えた同人作家(商業の方はこれから手を付ける)四暗刻こと、スウちゃんは、画面を横切るコメントの数々にゲラゲラ笑っております。
あぐらをかいてるその膝に、胸(パッドいり)を載せて、ネコミミ装備の男の娘がゴロゴロしております。
「クリスマス中止を願う人がいっぱいいるんだねぇ♪」
「リッちゃんが言うと真実味あるにゃー」
「うん。クリスマスだからって、家族と顔を合わせるの嫌だし」
「あー……おかあさまはね、まだリッちゃんの事認めてないっぽいねー」
「家族はスウちゃんがいればいいの!」
「ありがとにゃー」

可愛いこと言ってくれるじゃなーい!と、ネコミミ以外の部分をわしゃわしゃーに撫でまくってあげました。

12月31日、22時30分。
除夜の鐘に混じって響く、おなじみスマホの効果音。
フレンドさん、それもオフ会で面識のあるフレンドさんが、SNS日記を投稿したのです。
画面を見ると、

【件名:デブトロンPさんが日記を投稿しました】
『クリスマス中止曲が一万再生を越えましたw(本文はリンク先をクリックしてください)』

ふふふ。
あの「ニヤリ」とした悪い笑顔で書いてるんだろーな、デブトロンさん。
だからコメント。

「一万再生おめでとうございますーーーー!
初詣にはぜひ、十万再生を祈念しましょうっ」

そしてご一緒に甘酒でも飲みませんかッッ。

とか、打ち込みたくなって思いとどまりましました!
相互フレンドしていただいたプチオフの夜に、過去日記を全部読み漁って知ってます。デブトロンさんが20代の頃に乳がんで両胸切除ってて超平面なこととか。お酒だめだけど甘いもの好きだから、ダイエット兼用で趣味が30キロ走なこととか。『トランスフォーマー』の大ファンで、本当はデストロンPにしたかったけど、初投稿のとき「畏れ多い!」ととっさにデブトロンPって打ち込んじゃったこととか。
ああああ。そういう話をサラッと書いちゃう所がすっごい好きです。
自分が確実にキモイ。

参考資料:GLEE – Bills, Bills, Bills (Full Performance) (Official Music Vide) HD
https://www.youtube.com/watch?v=gqVw-XpV5WM

Bills Bills Bills /Destiny’s Child 和訳
http://blogs.yahoo.co.jp/hmr_entertainment/10866173.html

(この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体とは一切全くこれっぽっちも欠片も関係はありません。次は『クリスマスの『マス』』を掲載予定です。)

この作品は、クリエイティブ・コモンズライセンス-表示4.0にて、著作権を事前に開放してあります。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

サンタノベル:クリスマスの『りす』

(この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体とは一切全くこれっぽっちも欠片も関係はありません。創作SNS『創作王国』の冬季イベント用小説です。また全体的に大人のボカロ界隈向けのファンタジーです)
前編:クリスマスの『ク』はこちら

リストカットより気持ちイイこと、しよ!」
が、リッちゃんのお誘い。ワタシは手元の液タブを見て、残りコマ数を計算して、(リッちゃんはオミトオシだねー)と感心しながら『作業を保存』した。
「いーよ、このくらいなら。後で作業再開するけど」
暗くなっていくノーパソを閉じて、くるりと向きなおる。回転座椅子って便利。と同時に、リッちゃんが

「スウちゃんお散歩しよ!お・さん・ぽー♪」
「おぅふ!」

ワタシの腹に頭突きってくる勢いで抱きついてきて、ぐりぐりしてきたんで、こっちも報復に、癖のない髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやりました。

時刻は夜21時過ぎ、ちょっと夜食買いにコンビニへ行くにはよい時間で、リッちゃんのお散歩大好きを手伝うのも良い気分転換。押入れを改造したワードローブのアコーディオンカーテンをあけて、

「今日は冷えるから、これ着なよ」

と選んだのは、フェイクファーの縁取りと毛玉のついたケープ付コート。布の色は紺で、ファーが黒。

「わーい♪ボンボン可愛いねえ」
「何合わせようかなー、リッちゃん甘ロリ系似合うよねー」
「ゴスも好きなのよ?」

とは言いながら、モヘアの灰色セーターに、白のプリーツスカート、防寒用に厚手タイツ……と選んだあと、ネイルは水色を塗ってあげる。きれいな形の爪を塗りながら、

「頭はツインテ?」

確認すると、

「ん。冬ミクちゃんがいい!」

って返事。
リッちゃんの衣装コレクションは、大概のボカロコスプレをカバーしております。
ダミーヘッドが一杯並んでるのをワタシがこっそり、『なまくび☆コレクション』と呼んでる、ワードローブの一角。
初音ミク用のは緑系と水色系とグラデのやつで3種あって、冬ミクなら水色です。

「冬ミクコーデってなら、アクセも雪モチーフかにゃー」

ネイルが乾くまで、リッちゃんは指を揃えてじっと、お行儀よく座って待っている。色白で、ほっそりしてて、目も(アイプチが無くっても!)パチッとクリッとしてて、本当にお人形さんみたいに可愛いのです。
コスプレ写真集にちゃんと『男の娘』って表示しててもファンがつくからにゃー。理由はただただ、この可愛さにあると思うのですよー。ミントの香りつきリップ(水色)を塗ってあげてる口元なんか、シワ全然ないの。ホルモン注射のおかげで、ヒゲなんてほぼ無いです。

来年さんじゅーなのに。
本名が『立志(りっし)』なんてご立派なのに。

かくいうワタシも同い年で、本名が『数子(かずこ)』というので、お察しの通りそれでスウちゃんです。

リッちゃんがプリーツスカートにリボン付きのメリー・ジェーン(26センチ)が似合う子なら、ワタシはジーンズにドクターマーチンのワークブーツでお出かけする子。
リッちゃんが冬ミクコスなら、ワタシはコートの上に蛍光色のパーカーもはおって、その頃にはネイルも乾いてお出かけ準備完了。

「待ってー、スマホ忘れたらダメ」
「ハイハイ」

万歩計つきミニゲーム。
歩数計でコインのたまる携帯ゲーム。
スマホの位置情報ゲーム。
家からでかける理由、一人でぐつぐつ煮詰まらないための理由を見つけるのが、ワタシは得意。

リストカットしないと誰か他の人をぶっ壊してしまいそうになるリッちゃんが、「トランス」って言葉を知る前に意味を調べてきたのは、エッチい同人漫画描きとして商業から声かけられてたころのワタシです。

マジで男から女に性別変更したい、ってほどじゃないけど、リッちゃんは「立志伝中の人のように」って意味でつけられた名前と、名付け親のお祖母ちゃんの期待が、自分に合ってないって知ってくるしかった。
ご両親は理解があって、でもどうしたらいいかまでは分からないまま、腫れ物に触るような感じで接してた。
リッちゃん自身、自分がどうしてほしいのか上手く説明できないから、さらに煮詰まって、とにかくリスカでぼうっとなるまで血を抜かないと本当にどうにかなりそうだったので。

夜の公園、(失血で)ふらふらしてた成績中ぐらいの(ただし特進科)『立志』と、スパコミ用の原稿の息抜きにきた商業科(独立後を見越して、会計知識が欲しかったのだ)の『数子』が、

「死ぬ気なら縦に切りなよね」

で出会ったのでした。

女装とかコスプレとかを皮切りに、ワタシは色々教えました。
百合はいいものだ。
男の娘可愛いよ。

「スウちゃんは、どっちのが好み?」
「リッちゃんがエロ可愛いほう!」

この名前で呼び合うようになって、いわゆる通常の男女カップルとはチト違う方向に工夫しながら、オツキアイも深まって参りまして。

「リッちゃんエロい事もしてみ?これ、テンガって言うんだ。こっちのはアネロス」
「魔女とその相棒みたいな紹介だねえー」

に始まって、コスプレ写真集(男の娘)はイベントごとに完売するようになり。私も商業デビュー後、リッちゃんモデルにしながら描いてたら、最近は男の娘エロでアンソロとかお声をいただくようになり。
今はこーやって二人して夜のお散歩。リストカットより気持ちいい、コスプレしてのお出かけ。たまに誰かの役に立つこともある、お散歩。

平和って、いいなぁー。
コンビニで肉まん買ってこーかなー。

とかシミジミしてると、リッちゃんが裏声でハミングしてた、夏の海がどうとかってボカロ歌が、ミュートになってた。

「ん?どしたん」
「あのヒトみて。目線が変じゃない」
「んー……ああ」

中古自動車屋のライトまぶしい展示場の隣が、ワタシたちの目的地、アナタの隣~♪のコンビニ。
今日は風ないけど、足元から冷えびえする夜だってのに。光の輪の外、お買い得ワゴン車の影からコンビニ内を見つめる男性が一人。お安いライトダウンの上着と、裏起毛系のズボンにワークブーツ。腕にかけた黄色いビニール袋の中身は6パックの缶ビールぽい。
暖房効いた店のなかにいけばいいのに、そうしないってか。
コンビニの中はと見れば、学生服の女の子が三人、パン物色中。前に停めた自転車はこの子たちのっぽい。お惣菜の棚に屈むようにしてラベル見てるのが、杖ついた爺さん(自治会で顔を見た覚えがあるから、ご近所さんだ)。後は……、飲み物コーナーの前で、カートに屈みこんだ店員と、横で何か言ってる、リュック片手に提げたパンツスーツ姿の若い女性。

最初の「んー……」で見てとったのがここまで。

それで、「ああ」と納得がいったのは、店員がちらっとこちらを見て、立ち上がったときだ。屋外で暗い場所なんだから、店の中から見えるはずのない位置の男が、急いで身を縮めたんだ。

リッちゃんがワタシの肩をつついた。
(あのひと、やましい意図がありますね?)
スマホの動画アプリ起動しながらワタシもうなずいた。
(あるんだろうね、きっとね)
ひそひそ声で、

「スウちゃんここ待機でいい?」
「うん。お店で通報たのんでね」

短いやり取りのあと、このままいくと男を背後から追い越しちゃうから、ワタシは一度まわれ右して、大通りにでる角をいっこ先へ。白アリ駆除会社の角を曲がって通りに出ると、コンビニに向かう。ハッキリ見えないけど、中古車屋がわには動きなし。
店に入ると、きりっとした顔立ちの女の人が、2リットル入りの水ペットボトルを片手で持ってレジカウンターにたどり着いた所だった。ワタシの蛍光緑色パーカーにちょっとびっくりしたように眉をあげたけど、すぐ店員に向き直る。

「駅前交番の番号は分かりますね。『地域見守り店舗』なんですから。だから言っているでしょう、あそこの中古車屋の影に男がいるって」

およよ、もう対処中?なら安心かな。
ってなりしかけたけど、店員さんは、

「ですがね、誤報だったら、その、アレですよ、うちの方としましては。……そのぅ、お客様の言う」

とか歯切れが悪い。これは誤魔化しにかかってるな。リュックを肩に引っ掛けた女の人の脇に立つと、ワタシは財布を出す振りしながら、言った。

「その男の人、見たから来たんです。不審者ですので、通報してください。一緒に説明しますから」
「えっ」
「えっ」

最初の「えっ」が店員さんの驚きなら、次の「えっ」は女の人の驚き声。誰かが助けてくれるなんて思って無かったのに、って感じの。
私の助け舟があったから、店員さんはすぐバインダーを引っ張り出して、駅前交番に不審者通報してくれた。その間、女性は会計済ませて、イートインコーナーでペットボトルをあけてる。ワタシは肉まんを買いながら「どうするのかな」って横目で見てたら、そのまま片手で口をつけて飲み始めた。
くり返します。
2リットルのペットボトルです。
2リットルの水は重さ2kgあります。
ワタシがあったかい袋提げてイートインに座ると、女性はボトルに蓋を締めなおして、

「ありがとうございます」

と頭を下げてきた。2kgが1.5kgくらいに減ってます。

「もうすぐオマワリさんくると思うんで、安心してください」
「地域防犯の方がいらして丁度良かった。助かりました」

お互いににっこり。

そう。
ワタシのパーカーは、自治会名と、『地域見守りパトロール』の白抜きネーム入り!
スマホの位置情報ゲームが始まった頃、夜間の不定期外出を変に思われないようにしたいな、じゃあ地域貢献ダネ!と、自治会で参加表明してもらったものだ。学校の登下校時間帯には立たない代わりに、夜間見回り兼お散歩を週4日。
リッちゃんは保育園と小学校、商店街の地域イベントでプリキュアー☆とかミクちゃーん☆とか常連だから、お散歩中のコスプレにどうこう言う人は居ない。男の娘だっていうのも、とやかく言ってくるような奴はワタシが黙らした。自治会の会計担当なめんな。会費滞納世帯は把握してんだ。
お姉さんがスーツの胸元から(あ、かなり平面)ケースを取り出し、そして

「今、仕事用名刺を切らしてて……、趣味用のしかないんですが」

とちょっと困った愛想笑いになった。
こういう時、何となくわかっちゃうのは『オタクの勘』という奴だかなんだか。

「あー、どんなんでもいいですよー。私のコミケ用名刺なんて、一般の方はちょっとひいちゃうし」

フリル付きドレスの美少女が、股間からにょっきりで汁だくでR18な絵デス。モデルは今、中古車屋の駐車場から2メートル離れた電柱の影で、不審者を見張ってます。

アハハハー、っという笑いは両方があげた。
ブルータスお前もか、的な。

「実は私、ボカロPやっておりまして。そっちのしか今は……」
「え、本当ですか!私も、趣味で、ボカロ絵を支部にあげたりしてるんですよー」

社交辞令抜きで声が上ずっちゃった。

支部ってのは、ピクシブの略語で、あらお姉さんちゃんと通じてるのね。

ご同類デスね。
そういうやり取りをしていたら、窓の外に動きがあった。自転車を停めて、交番からきたお巡りさんが軽く敬礼してくる。
会釈を返してたら、オマワリさんがさっと背中を向けて駆けてった。
分厚い窓があるので音声無し。ただ、映画ポスターごしに見える闇の中に、水色のツインテールが動いた気がして、

「お姉さん、ちょっと待っててください」

ワタシが腰を浮かすと、お姉さんも立ち上がった。

「あ、いや、私も状況説明しないといけないかと」
「はい?」
「心当たりというか、顔見知りの犯行だからです」

ぱたぱた走るワタシと、タッタッタで軽く先行するお姉さんがたどり着いてみると、満面スマイルのリッちゃんが

「かくほー♪」

ってピースサインしてた。男性の腕をねじり上げた格好で。お巡りさんがこっち向いたとたん逃げようとした男を、タックルからのナントカカントカ(格闘技用語は分かりません)でつかまえたんだって。
コスプレのリッちゃん、またの名を変質者ホイホイ。好きなゲームは美少女格闘とポケモンで、本人もコマンドナントカとシロップみたいな名前の何かをやってる男の娘です。
事情説明につきそってみると、男は本日付で元彼氏になったとかで、ビニール袋には缶ビールとカナヅチ(パッケージは外してあります)が入ってて、未遂とはいえ傷害の意図があるわけで。お姉さんの発言をきいて、
「善良な市民としては言っちゃダメな発言」
をしちゃったわけで。今宵一晩お泊りの上、書類送検と相成りました。
女の人はその間、冷たい目で男性を何度か見たけど、それ以外は完全に無視。お巡りさんへの説明も、スライド資料を作ってあったんかいと思うくらい立て板に水。そして怖いくらいにKY。
3駅向こうの健康ランドまで走っていく、というジョギング強者のお姉さんが、別れ際にくれた名刺には、「ボカロ作曲・編曲・調教」とある脇に、

「デブトロンP」

と、サイトアドレスとGメールのメルアドが書いてあって、リッちゃんは軽くのけぞりました。
スウちゃんは、

「SNSでフォローしてます!フレンド申請していいですか!」

とテンション上がりました。

「いいですよ」

リュックを背負いなおすと、デブトロンさんは軽くアキレス腱のばしをしてから、夜の街路へと走り出していったのでした。

第三話:クリスマスの『ます』はこちら

(この作品はあくまでフィクションであり、実在の人物・団体とは一切全くこれっぽっちも欠片も関係はありません。次は『クリスマスの『マス』』を掲載予定です。)

この作品は、クリエイティブ・コモンズライセンス-表示4.0にて、著作権を事前に開放してあります。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。